うぃんど〜ず注意報

いつまで遊んでるの



 暗くなるまで裏の神社で遊んでいた子供のころ、よく母親にしかられたものです。「いつまで遊んでるの!」

 長じてソフトウェアの会社勤め。まかされたプログラムの仕事を、ああしようか、こうもしようかと悩んでると「いつまで遊んでるんだ!」と上長のお声。じゃ、こうしますとプログラムの方針を決めました。それから少しはえらくなってから部下に「おい、いつまで遊んでんだ?」と声をかけると、「遊んでません! 真面目にやってます!」ときたもんだ。

 1987年10月19日の月曜日、ニューヨークはウォール街で株価が突如の大暴落! いわゆるブラック・マンデーですね。金融パニックになりました。

 このときの原因のひとつが「プログラム売買」だと言われました。株式市場も証券会社もコンピュータの導入がすすみ、証券会社は株式市場の株価のデータをコンピュータに入れて、あれやこれやと計算して売買の作戦をたてていたのでしょう。それが一歩前進して、株価がこうなったら売るという作戦をコンピュータにプログラムしたのです。こうすれば、いちいち人間が判断しなくてもコンピュータが計算して素早く売ってくれます(おそらくまだ高値のうちに)。損を少しでも防げます。リスク回避ですね。

 この日、何らかの理由で株価が下がりはじめ、ウォール街のコンピュータのプログラムは計算結果を売り≠ニはじき出しました。多くの株が売られたので、株価はさらに下がり、またまたコンピュータが売りを出し、もっと株価が下がり、下げ止まりが効かなくなって・・・と連鎖反応の状態になったといいます。プログラムを誰も止められなかったのでしょうか?

 プログラム売買が原因と言われたときは、コンピュータ屋としてはムッとしました。「コンピュータの所為にするなよ。プログラムを組んだヤツが下手クソだったんだよ」というのが私と仲間の意見。プログラム作りのときの工夫というか「遊び」が足らなかったのでしょう。でも、原因はプログラムではなかったようです。

 あれから約20年。このところの金融状況は「プログラム」の所為かもしれません。

 まるで景気を数式化して計算できるかのような論理を展開したのが金融工学。コンピュータにプログラムして膨大な計算をしたのでしょうねぇ。でも、ノーベル経済学賞をとった学者の金融会社はあっさり破綻しましたよね。

 それから米国のサブ・プライム・ローン。これを小分けした証券にして、他に先物取引とか、何とかヘッジとかの小分けした証券とセットにした金融商品を作り出しました。どれかに損失が出ても他でカバーする仕組み。どう小分けして、どう組合せ、どう売るか、この計算もコンピュータにプログラムしていろいろやったんでしょう。でも、ローンは大量に焦げ付き、金融商品は値下がり、大量に購入していた世界中の金融機関は赤字に転落・・・

 それ以外の金融商品も似たり寄ったりなのでしょう。どれもこれもKY=景気が読めない=だったのです。景気の『気』はひとの心の動き。「消費マインドが冷える・・」なんて表現があるぐらいだから。

 同じ『気』の天気のほうも、予報はあまり当りません、スーパー・コンピュータを何台も動員して計算しているというのですが。観測所や人工衛星から気象データをいくら集めても、ずっと過去のデータを記録していっても、まだまだデータが足らないのです。いくらプログラムを工夫しても当らないのでしょう。

 景気の計算のほうはひとの心の動きというデータが足らないのではないでしょうか? グローバル経済ともなれば、新興国も加わりますから一握りの先進国のデータじゃ足りません。国や地域によって歴史も文化も違いますから、ひとの心の動きはそれさまざまです。膨大なデータが要りますよ〜、計算するには。

 ・・・そもそも「ひとの心の動き」をデータにできるんですかね? いくらコンピュータにプログラムしてもデータではないものを計算することはできません。

 このところの金融事情を「カジノ経済」とか言う人もいます。市場は「賭場」ということになりますね。経済が社会から遊離して独り歩きしています。こんなことができたのはコンピュータのおかげですが、プログラムすれば何でもどんな計算でもできると思っている傲慢な人の心が問題なのでは?

 いつまでもコンピュータで遊んでいると「今に墓穴をホリエモン」ですよ。 ええっ!、もう掘っちゃったって!?




※サブ・プライム・ローン

低所得者向け住宅購入資金貸付。「返済金が払えなくなったら住宅を売ればいい、住宅は値上がりしているから」というのが殺し文句。あげく、多くの低所得者を過酷な貧困者に突き落とすことに。

※き【気】(広辞苑から抜粋)

○天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。
○生命の原動力となる勢い。活力の源。
○心の動き・状態・働きを包括的に表す語。
○はっきりとは見えなくても、その場を包み、その場に漂うと感ぜられるもの。
○その物本来の性質を形作るような要素。特有の香や味。け。

※今に墓穴をホリエモン

まだ彼が意気軒昂なころ、ラジオから聞こえた小沢昭一さんのお言葉


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