色は匂えど散りぬるを・・・



 言うまでもなく、私たち人間(ヒト)は「猿族」の動物です。頭の前側に一対ある眼には残像効果なる機能があります。ライオンやヒョウなどネコ族の眼には残像効果がないそうです。あったら追いかけているシマウマが二重三重に見えて、捕まえるどころじゃないでしょう。残像効果は森に棲む猿族には好都合、木々の果実や芽などエサを見逃しません。そのうえ色彩能力があります。果実や芽が食べごろかどうか見分けられます。ネコ族にとったら色彩は邪魔かもしれません、素早く逃げるシマウマを追うのに。

 以上は、勤めていた会社の役員さん(※)の受売りです。ついでにスポーツは猿族として苦手なことをやって楽しんでいるんだ、とのこと。ピッチャーのカーブに空振りするのは残像効果のなせるわざ。ネコやイヌがバッターになれたら打ち返せるのが当たり前で、面白くも何とも無いのでは?

 さて、初めて見たテレビは白黒。猿族のなかでも脳がでかいヒトは想像力ってものがそなわっていますから、色彩を感じてちゃんと楽しんでました。お正月に街の映画館で総天然色を見ると、なんだかとても毳毳(けばけば)しく感じたものです(「三丁目の夕日」の時代の話)。

 初めて仕事で携わったコンピュータにはモニタ(テレビ画面)はありませんでした。コンピュータへ命令し、結果を紙に打ち出してくるのは電動タイプライタです。紙の代わりにモニタが導入されましたから映るのは文字だけ。

 パソコンが登場したときは白黒の画像が映せるようになっていました。当時のパソコン通信は文字だけでしたが、その手の画像を配信する草の根通信(サイト)もありました。インターネットのようにそのまま見られるわけではありません。いったん長い時間をかけてダウンロードして、パソコンのメーカー別の専用プロフラムが必要で・・・。

 カラーモニタが普及してきて、文字や罫線に16色くらいの色付けができるようになったころです。ある会計ソフトの出金伝票の罫線は青、入金伝票のは赤でした。伝票の画面デザインは似たようなものですから、白黒だと入≠ニ出≠フ文字が違うだけで、よくよく注意しないと間違えます。色をうまく使うとなあと感心しました。色を使って似ているものをぜんぜん違うもの(真反対)にするなんて、さすが猿族ですね。え? 紙の伝票用紙も入金が赤、出金が青。そうですね、紙の時代から猿族でした。

 モニタにカラーの画像を出すようになったのはウィンドウズが出てきてからですね。ご存知のように画面は点の集まりです。白黒なら1点につき白か黒かの2パターンで、0か1かの二進数が1桁です。1点につき1ビットになります。私が使っているパソコンは16ビット色に設定してあります。ということは1点が二進数16桁で約65000パターン。白黒より65000倍の手間をかけているのです、パソコンは。これも機械が速くなったおかげです。速さで色を出しているってわけです。

 色数が多くなれば、色付けの工夫も幅が広がります。ホームページには、とても派手な画面があり、総天然色映画のように驚いてしまいます。普段、仕事で使うソフトは眼にやさしいほうがいいですね。また、同じデザインでもほんのちょっと色を変えておくと、別ものだというのが意識せずわからせられます。さりげなく操作を間違えないように導く、そんな色付けもプログラムつくりの技と心得ております。とはいえ、社員が淡いピンクの画面を拵えたときは迷いました。お客様にすんなり受け入れられてほっとしました。配色についてはまだまだ感覚に頼っていて、理論は勉強が足りません。同業者のソフトがグレー一色なのを見ると、業界全体が不勉強なのですかね。

 太古、光を放つものといえば天空の太陽、それと地上の燃える火だけでした。放たれたきつい光線が物質にあたると、一部が散乱してやわらかくなり、それを眼が色と感じています。それに比べるとモニタやテレビは、電気の力で発光させています。色と光では眼の感じ方が違います。色付けと言うよりは光付けの工夫でしょうね、勉強しなければならんのは。

 発光ではなく、反射で映すモニタを研究しているメーカーがある、というニュースを耳にしたのはずいぶん前です。「画面は見つめるな、眺めよ」をモットーにしてる視力がよろしくない私にとって、とても待たれる製品ですが、どうなっているのでしょう? 脳のでかい猿族は、光源を見つめ続ける能力がそなわるほど、まだ進化していないのですから。




村田徳治さん 化学者 鰹z環資源研究所の所長、また淑徳短期大学で教鞭をとる。

↑頁先頭へ