縦書き



 昨年、イラクで日本人の人質事件が報じられたとき、すぐさまカタールのテレビ局のホームページを見ました。アラビア語は全く解せないけど、写真を見れば最新の状況がわかるだろうという魂胆(※1)。検索は日本語で簡単でした。

 テレビ局のアラビア語のホームページは当り前ですが右横書きです。普段、左から書く横書きしか見ませんから、とても新鮮でした。パソコンもお国お国の文化に溶け込んでいるんだ、と感心もしきり。ああ、そう言えば小さい頃、日本語でも右横書きをよく見かけましたねぇ…。

 ものの本(※2)によると、横書きは右か左かの政治的な論争が明治維新から戦後まで続いたとのことです。右横書きは伝統的・国粋的、左横書きは近代的・西欧的、というのが論点。右か左かは、本の表紙や新聞の見出し、標語や題目など単文をめぐってです。特に戦時体制になったころ鉄道の駅の看板がもめたそうです。ですが、長い本文はすべて縦書きであることは論争になっていません。

 そもそも江戸時代以前の文献は、奈良時代に遡るもすべて縦書き。横に書き進むという感覚は、わが文化の伝統にはなかったのです。右横書きに見えたのは、実は
 「一行一文字の縦書き」
にすぎなかったのです。戦後、政治的論争を度外視して、いつのまにか本文まで左横書きが定着しちゃいました。かの政治的な物議をかもしている国粋的歴史教科書でさえ、本文までもが左横書きです。

 学習塾を経営するお客様からホームページの作成をお請けしました。最初は「国語力を育てる」という学習方針や入会の案内。続いて子供たちの俳句や作文を載せました(※3)。原稿をみると、俳句や作文は縦書きです。ホームページも縦書きにと試みたのですが、これが難題。

 句読点(、。)の位置が違うのです。縦書きでは右上隅、横書きは左下隅。促音の小さい文字(っ・ゃ・ゅ・ょ・ぁ…)も位置が違います。長音記号(ー)は縦書きと横書きでは向きが違います。かぎかっこにいたっては形が違います。単純に文字を縦に並べればよいというわけにはいかなかったのです。

 ワープロ・ソフトや文書作成ソフトでは、縦書きに設定すると、文字の入力から印刷まで縦書きで、句読点や促音、記号もちゃんと縦書きの位置・形になります。縦書きの習慣や客層があるからでしょう。なのにホームページを見るブラウザ・ソフト(※4)には縦書き設定がありません。しかたなく横書きで勘弁してもらいました。わが国のパソコン・メーカーさん、縦書きブラウザを開発して、無料でプレ・インストールぐらいしてくださいよ、儲けばっかり考えてないで(※5)。

 先日、はがきが縦書き用だということに気付きました。往復はがきに横書きで印刷をしたのですが、しっくりきません。『はがき』『日本郵便』という標題は左横書きなのにです。原因は右綴じのせいでした。横書きなら左綴じです。郵便局で「横書き用の往復はがきをくれ」と言うと、職員は不思議な顔して「ありません」。民営化するまで待つか…。

 横書きと縦書きでは、左上から右下方向へ読み進むか、右上から左下へ読み進むかという違いがあります。ですから綴じかたも違います。ブラウザ・ソフトでいえば、横書きなら上から下へスクロール、縦書きなら巻物のように右から左へスクロールするようにしてほしいものです。

 身の回りには縦書きがたくさんあります。書道はもちろん、新聞・雑誌・小説・選挙の投票用紙も縦書きです。なにより漫画のセリフが縦書きです。コマの流れも右上から左下へ、コマの中の絵も右から左へと流れています。縦書きの流れにそって描いているのです。作家たちは意識せずそう描いているのでしょう。二人の登場人物の会話は、時間的に右側の人物が先で、左側の人物が後です。単に横書きにしたら、四コマ漫画といえども、読みづらいく、見づらいでしょうね。

 横書きしかできないアルファベットの西欧言語に比べると、横書きも縦書きもできる日本語とその文化は、表現力がとても豊かなのですね(※6)。



※1
湾岸戦争の時は英語が読めなくてパソコンの電源を慌てて切ったっけ 第13報「ポチっとな」
※2
『横書き登場』屋名池誠著 岩波新書863
※3
悠愉学舎(ゆうゆぜみなぁる)
http://www.sakura-catv.ne.jp/~yamasoft/yuyu
※4
代表的なのはマイクロソフト社の Internet Explorer
※5
縦書きブラウザ・ソフトに挑戦している方々もいます。が、横書きの中に縦書き部分をいれるというもの。縦書きが基調ではないようです。
※6
というわけで、この原稿は文書作成ソフトで縦書きで書いてみました。ついでに当社のソフトも縦書きに挑戦してみますかな…


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