公明正大 それでもゲームはゲーム。コインを入れるとカードを5枚出して、そのなかに当りの組合せがあれば、応じたコインを戻すというもの。最低の2ペアならコイン2枚、最高のストレート・フラッシュなら500枚くらいだったと思います。配られたカードは1回だけ何枚かを配りなおしできます。 製作の依頼者は『ゲームは公明正大でなければならない』と要求されました。つまり、当りは確率理論に基づいていること。たとえ最高の当りでも確率どおり出なければならないのは当然です。さらに、どんなボタン操作をしてもこの確率を崩してはならない、たとえば、とある操作をしたら大当りが出るとか、電源を入れてから何秒後に特定のカードが出るとかではダメなのです。 先日、テレビで「絶対に正確なサイコロ」を紹介していました。サイコロは各面に彫る穴の大きさや数の違いで、立方体の中心から重心がずれていて、1から6まで等しく目が出るわけではないそうで、これを克服したサイコロが1つうん千円でした。私たちが手がけたソフトもこれと同じ、絶対に確率どおりで、予測もできす、特定の操作も効かないというものです。 「このゲーム機を不正操作してボロ儲けをたくらむ輩が、秘密を知るプログラマーを拉致する」などと上司に脅されていましたから、必死に作りましたね。そして、出来ました。『作った我々でも何が出るかまったくわからない』という『公明正大』なソフトです。「プログラムどおり順に命令を実行するのがコンピュータなのだから、それはありえない」とお思いですか? 偶然が支配する世界がコンピュータの中にもあるのですよ…。それを利用しました。でもソフトのテストは大変です。大当りは何日やっても出るかどうかの確率です。理論的なテストにとどめ、実証的なテストはできませんでした。 さて、納品が迫った頃に依頼者から追加の要望がありました。ゲーム機の蓋を開けると小さなスイッチが数個並んでいます。1つ目のスイッチをオンにすると、最高の当りが出ないように、2つ目のスイッチでは次の大当りが出ないように、全部をオンにすると何も当たらないようにする、というもの。「確率どおりだから万々が一にでも最高の当りが出る可能性はあり、ゲーム機を置くお店はそれを恐れる」とのことでした。 そこで、1枚1枚のカードを配るときに当りになるならそのカードを捨てて、次のカードを出すようにプログラムしました。それも当たるならまた次のカードにします。カジノのディラーだってできない神業でしょう。ですが、プログラムのテクニックは簡単です。それに、みかん箱レベルのコンピュータでもまったく相手に気づかれることなくやってのけます。 納品後、プログラマーの呑み会は盛り上がりました。 「あのゲームのスイッチ、今日は何枚までコインを出していいかを設定できるようにもできたよね。その方がゲームは楽しめるし、お店の都合がいいんじゃないか」 「それじゃ早く来た客の方が有利だ。時刻で当りを調整した方がいい」 「お店には何台もゲーム機を置くんだろう。そしたらゲーム機どうしをつないで、店全体で何枚出すかの設定もできるね」 あらあら、公明正大はどこへ行っちゃたんでしょう…。これじゃ詐欺の手口の討論会じゃないですか。反省…。コンピュータというもの、みかん箱レベルといえどもプログラムしだいで公明正大にも、詐欺師にもなりますね。しかも、公明正大を実証する手立てもないし、詐欺だとしたら見抜けない。何を信用しましょうか。プログラマーを拉致するしかありませんかね。 もともと賭け事はあまりやりませんでしたが、この仕事をして以来、パチンコはぜんぜんやっていません。 街のゲーム機はともかく、競馬・競輪のオッズは本当? 株式市場の株価も操作していない? と勘ぐりはじめたらきりがありません。国会や選挙の電子投票なんて本当に大丈夫なんでしょうね、政治的なスイッチがオンになっていない? どうやって実証します?
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