御足(おあし) 『ホームページの中に個人情報なんかあるの?』 『う〜ん、個人情報になるかなぁ』 『そう、一応ね、対策はしてあるんだよ』 『パスワードとかだろ』 『それは当然! サーバーのコーナーは施錠してあって、鍵がないと立ち入れないのさ』 『じゃ、私がサーバーで、ちょいとホームページを直そうにもできないの?』 (※1)
『そう、個人情報保護法ですよ』てなやり取りがありました。 個人情報保護法が、いよいよ施行されますね。公人(=政治家)のプライバシー保護(=秘密隠蔽)などなど、いろいろな目論見が見え見えで、すったもんだしたのは記憶に新しいところです。個人情報の漏洩は昨今始ったわけではありません。サーバーの相談をしていて、コンピュータ・センターの運営責任者をやっていた頃を思い出しました。もう二昔近く前です。 コンピュータ室はビルの2フロアを占め、常時5〜6名のオペレータを昼夜交代で詰めさせていました。コンピュータ室に入るには手前の小部屋(オペレータ室)を通るような造りで、オペレータ以外はそこから奥のコンピュータ室には行けません。コンピュータの処理を依頼したり、結果を受取る利用者は、そこから奥へは入れないのです。オペレータが阻止します。 そのコンピュータ・センターでは個人のお客様との契約を記録していました。契約数は1千万件以上、個人情報の塊ですね。氏名、住所、電話はおろか、生年月日、勤め先、家族構成…。もし、漏洩でもしようなら、運営責任者のクビは確実に飛びます(幸いにも飛んでいません)。 当時、もし漏洩があったら真っ先に疑われるのはオペレータ達です。もっとも、データを持ち出そうにも媒体は磁気テープでしか使えませんから、一筋縄ではいきません。直径30cm、厚さ数cm、建物を出るとき、守衛さんに簡単に見つかってしまいます。 が、技術が進歩して、カセット型磁気テープに切替えました。テープの大きさはVHSビデオテープの3分の2くらい、ポケットに入ります。これなら守衛さんの目を盗めます。そこで出した指令。コンピュータ・センターの近くに事務所がありましたので、 ○事務所でユニフォームに着替える ○ポケットを空にしてセンターの建物に出入りする (タバコやハンカチは手に持つ)
○守衛さんに挨拶するオペレータ達は「疑われる原因を少しでも排除する」ということで、納得しました。「李下に冠を正さず」なんて格言を知っていたらかっこよく決められたのに…。そうそう、地方選挙にしろ国政選挙にしろ選挙の前はこの指令を強化したものです。 当時でもネットワークをはり、全国の営業所では専用の端末機で処理した結果を見ることができるようになっていました。端末機はモニタとキーボードだけの構成で、フロッピーもハード・ディスクもついていません。ただ見るだけ。印刷はモニタの画面を打ち出すだけです。個人情報を大量に引き出すには、相当の手間がかかります。それにそんな使い方をすればすぐバレます。ですから、コンピュータ・センターからの漏洩を防げば、ほぼ完璧でした(※2)。 それが今や、インテリジェント端末機というふれこみで登場したパソコンになり、ハード・ディスクはあるし、プログラムを作ることも可能です。ですから大量の個人情報をセンターのコンピュータから引き出すことも可能。万年筆よりも小さいフラッシュ・メモリー(※3)でフロッピーん百枚分のデータを見つからずに持ち出すことも可能。端末機があるのは事務所でしょうから、コンピュータ・センターの守衛さんのような見張りはいません。 パソコンに取って代ったのは専用端末機の値段が高いから、というより大量生産でパソコンを安く作っていったからでしょう。 かつては1箇所だったデータ漏洩の防止対策が、無数に増えてしまいました。まあ、その分お安くコンビニエンス(便利)にはなりました。 …子供のころ、お金のことを『おあし』と言っていました。小遣いはすぐ出て行ってしまうから。広辞苑には『4(足のようによく動くからいう)流通のための金銭。』とあります。そのうち『n(防ぎようもなく出ていくからいう)コンピュータの個人情報』なんて説明が載るようにならなければいいのですが…。
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