第37報
'04.7.20

もじもじ


 初めて自分のパソコンを買い、自宅で使ったのはもう20年近く前でしょうか。その頃のある朝、衝動的に、勤めていた会社を1日サボることにしました。さて、どう上司に連絡しようか思案。電話は上司に言訳を言わなきゃいけないからヤメ、FAXにしよう、近くの文房具屋あたりでサービスしてたよな。そうだ、それならパソコン通信だ、メールをファックスしてくれるサービスがある、これにしよう。てなわけで『本日休みます』とファックスしました。震えるような筆跡での『本日休みます』ではありません。無味乾燥な活字で『本日休みます』。どう感じたんでしょう、上司に聞いておけばよかったな…。今では社員から『1時間遅れます』と携帯のメールを受取る側になりました。

 携帯でもパソコンでもメールは文字だけです。以前にもお報せしたように(※1)コンピュータは文字を数字に直して記録し伝送しています。いわゆる文字コードです。たとえば『祭』という文字は『36309』になります。2進数にすると『1000 1101 1101 0101』。1文字につき16個の信号を記録し伝送しているわけです(※2)。キーで「まつり」と打ち込んで変換して画面に『祭』と表示します。これをメールすると『1000 1101 1101 0101』なる信号で電線や電波を伝って相手に届きます。そして相手が携帯でもパソコンでも画面に『祭』と表示するわけです。

 仮にあなたのパソコンのメールの画面のフォントが明朝体に設定してあると『』、相手がゴシックだと『』、ひょうきんにも江戸文字だったら『』。見た目は違います。ひょうきんな相手が『神輿』と返信してきてもあなたの画面は『神輿』です。メールは文字コードしか伝送しません。書体はもちろん大きさは受け手の画面の設定しだい。せっかく相手が気分を出した『神輿』もこちらは『神輿』。

 出した気分をも伝えたいなら、ワープロ・ソフトで江戸文字で『神輿』と書いた文書ファイルを作成して、メールに添付してもらいましょう(※3)。ただし、送信時間がかかること、電話代が嵩むことを覚悟してください。なんとなれば、伝送するのは文字コード2文字分のほか、フォント名、ポイント数(大きさ)、それに文字間隔のサイズや位置(インデント)などなど文字の表示にかかわるデータ、さらにページのサイズや余白の寸法などなど用紙に関するデータなどなど… も付加され信号となって送られるからです。

 え? せっかく嵩むのを我慢して受信したのに、江戸文字になっていない? ありゃ、それはあなたのパソコンに江戸文字のフォント・セットがインストールされていないからでしょう(※4)。相手は趣味で江戸文字のフォント・セットを購入していたのはないでしょうか。

 それでは画像にしましょう。画像ソフト(お絵かきソフト)で江戸文字で『神輿』と書いた画像ファイルを作成し、メールに添付してもらいましょう。ただし、ワープロ・ソフトよりももっと嵩むことを覚悟してください。なんとなれば、画像は細かいマス目に仕切って、1マスごとに赤緑青などの色の度合いがどのくらいかをそれぞれ数字にしています。ですから画像のサイズが大きければ大きいほど嵩むことになります。でも、画像は絵ですからフォントは関係ありません。パソコンでも開きますし、携帯でも画像は表示できます。

 ちなみに『お祭りの御神輿』を文字だけを記録する「メモ帳」、ワープロソフトの「ワードパット」、画像ソフトの「ペイント」で、それぞれファイルにしてみました(※5)。ファイルの大きさはそれぞれ、14、5,120、518,454バイトでした。ワープロソフトは文字だけの約3百倍、画像ソフトは約3万倍も大きさの伝送信号が必要ということです(※6)。

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 先頃、インターネットのホームページの書き込みがきっかけで子供どうしの殺人事件がありました。たぶんこの書き込みページもメールと同じように文字だけの表示でしょう。であるから、手軽に扱えるのです。でも、そこに現れた無機質な文字の列、震える筆跡などあるはずもありません。テレビ・ニュースのアナウンサーは思い入れたっぷりに書き込まれた文章を読み上げていましたが、やりすぎです。画面に現れているのは無機質な文字の羅列なのですから。しょせんコンピュータは道具、なのにおきた事件…、人間の想像力のなせる技なのでしょうか?



※1 
第21報「デジタルは及ばざるがごとし」
※2 
どの文字をいくつにするかはJIS(日本工業規格)で定めています。でも国際的な規格はまだもめているようです(同じ漢字でも日本と中国ではコードが違う)。

※3 
相手と同じ(あるいは互換性のある)ワープロ・ソフトを持っていなければ、添付の文書ファイルは開けませんよ。
※4 
ウィンドウズの[コントロール・パネル]の[フォント]を開いて、どんなフォントのセットが入っているか確認してみてください。江戸文字は購入時には入っていません。
※5 
いずれも購入時に入っているウィンドウズの標準ソフトです。
※6 
画像ファイルには種々の形式があります。「ペイント」で作ったファイルはどの携帯の形式にも合わず、表示できません。他の画像ソフトで携帯に合った形式にする必要があります。




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