第31報
'03.7.10

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経験・・・いつか来た道


 「ウィンドウズ」を初めて耳にしたのはいつだったでしょう? 先の湾岸戦争のころだったかしらん。たしかウィンドウズ「3.0」でした。パソコン雑誌が大々的に取り上げていましたが、何か空騒ぎのようで、興味もわきませんでした。が、ウィンドウズ「3.1」は90年代前半におおいに出回りました。
 今パソコンを買うと、ウィンドウズは「XP」です。一体、ウィンドウズにはいくつ種類があるでしょう? 目にした順で、ウィンドウズ「3.0」「3.1」「NT」「95」「98」「2000」「ME」「XP」と8種類。さらに「NT」にはバージョンが3〜6ほどあり、「95」にも3つ、「98」にも2つあります。さらにサービスパックなるものがあって、これらも数えるととても両手両足の指では足りそうもあません。
 これらを分類すると大きく2系統です。

 まず、ウィンドウズ「3.0」と「3.1」。
 ウィンドウズの前は、DOS(どす※1)というパソコンで、真黒な画面に白い文字だけでした。そのDOSにウィンドウズを上乗せしたタイプです。それまでは1度にひとつのプログラムしか実行できませんでしたが、マルチ・タスク、同時に複数のプログラムが実行できるのです(見た目ですが)。表計算ソフトでグラフを作りつつ、そのままワープロソフトに貼り付けられる。実に感動的でした。これでパソコンも大型コンピュータと比肩できるところまで来ました。
 ですが、ハードウェアは32桁計算できるのに16桁しか使っていません。大きな算盤の端っこで計算しているようなもの。めざましく発達するハードウェアの前ではすでに限界が見えていました。
 そうは言っても、今日もご使用になっているお客様もいらっしゃいます。用が足せればそれでよいのですから。
 そして32ビット対応したのがウィンドウズ「95」「98」「ME」。ネットワークをも標準にしました。「3.1」でもネットワークはできるのですが、特別なことという扱いで、なんとも面倒な、というより訳の分からない呪文を唱えるごとく設定したものです。それが標準扱いですから分かりやすく設定できます。これがうれしかったですね。

 もうひとつの系統はウィンドウズ「NT」「2000」「XP」。
 まったく別ものです。ウィンドウズの中にDOSを包含して、はなっから32ビット対応。「3.1」が出回っているころ、「NT」が登場しました。ちなみにNTとはニュー・テクノロジーの頭文字。「大型コンピュータを小さくする」という思想で、ダウンサイジングとか言って踊っていたものです。ネットワークが前提で、中心にサーバーをやるパソコンを置いて、それにワーク・ステーションというパソコンをたくさん接続して、ひとつの大きなシステムにするという思想です。それまでのホスト・コンピュータと端末機という構成と同じ思想です。身近な例は銀行のコンピュータとキャッシュ・ディスペンサーの関係。これをお手頃にしたのがこの系統です。

 DOS、ウィンドウズ「3.0」〜「ME」の系統は、趣味や遊びのコンピュータを仕事に使えるよう凛々しく発展させてきたものです。いわば「小さなものを大きくしていく」。それに対して、「NT」〜「XP」系統は、大型コンピュータをお手頃にしつつ遊びや趣味の領域もいれて使いやすくしてきましたので、「大きなものを小さくしていく」といえるでしょう。

 「小さなものを大きくしていく」と「大きなものを小さくしていく」には当然のことながら大きな差があります。前者は小さいが前提ですから、あくまでも使う人の個人責任とモラルが前提になります。ですからパーソナル(個人の)コンピュータ=パソコンと呼ぶにふさわしい。に対して後者は大きなものが前提ですからサーバーに接続するものは、すべからく管理(あるいは監視)の対象となります。したがってターミナル・コンピュータのほうがふさわしいように思います。タミコンですかね。

 さて、業務でコンピュータを使う場合、どちらの考えがよいのかは、その業務にもよりますし、業務を遂行する組織にもよりましょう。前者はボトム・アップ向き、後者はトップ・ダウン向き(それぞれ逆に使うことも可能は可能です)。

 ですが、「小さなものを大きくしていく」シリーズが「ME」で打ち止めです。マイクロソフトは管理が前提の「XP」だけを売っています。パーソナル(個)が否定されたようでさびしい限りです。

 かつて、IBM社が世界中の大型コンピュータを牛耳り、端末機もIBM社製でないと接続できない状況がありました。IBM社による情報管理、世界はIBMに乗っ取られるのか、などとマジに危惧したものです。それを打毀したのが、個を前提としたNEC社をはじめとするパソコンとマイクロソフト社のDOSなのでした。「XP」はエクスペリエンス(経験)の略だとか。経験≠ニはIBM社の轍を踏まないぞ、独占をしくじらないぞ、という個から管理に路線を変えたマイクロソフト社の決意の現れなのでしょうか?

 いやいや、いつか来た道、歴史は繰り返すのでしょうか?


※1 DOS disk operating system
ディスクを扱うOSということ。当時のディスクはフロッピー。
OS operating system
コンピューターで、利用者とハードウェアの間にあって、利用者がコンピューター‐システムをできるだけ容易に使うことができるようにするための基本的なソフトウェア。【広辞苑】



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