2003.1.10

 

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ソフトは腐らない


 コンピュータの仕事を始めたころ(20年以上前)、ある先輩が『ソフトは腐らないからなあ』とぼやいていました。どんな機械でも故障したり磨耗したり劣化したり、いずれ使い物にならなくなります。コンピュータのハードウェアも機械ですから同じこと。それに比べると、ソフトウェアはハードウェアを新しくしても動きました。先輩のぼやきは、客先の大型コンピュータが新機種に切り替ったときに出たもの。確かにソフトウェア=プログラムは論理の組立を符号化(コンピュータ言語で記述)したもので、それを記憶媒体(磁気テープ)に記録しておき、動かすときはコンピュータに読み込ませるのですから、コンピュータが新しくなってもソフトはそのまま使えるのです。ぼやきではなく、プログラマの自慢を言ったのかもしれません。
 ただし、当時は同じメーカーのコンピュータでないと動きません。そのコンピュータで動くように記述したのですから。一応、JISなど工業規格で定められたコンピュータ言語なら、細かいことを除けば動きました。

 ある商店のたいへんご年配のご主人さんの相談にのりました。なんでもパソコンでお店の経理用ソフトをご自身でお作りになり使っていたのですが、長年使ったパソコンが動かなくなったので、秋葉原へ新品を買いに行ったのです。ところが、彼の作ったソフトが動くパソコンが無いというのです。ウィンドウズが出まわったころで、彼のソフトが動くパソコン(※1)はとっくに生産を中止していて、そのメーカーはウィンドウズ・パソコンに乗り換えていてたのです。ソフトは腐らなくても動かす機械がなければ・・・。そこで彼は一念発起、わが社へ何度も足を運びながら、ウィンドウズ用のソフトを勉強して、「これを作らないと安心して冥土へ行けねぇ」と、とうとうソフトを作り上げました。すごいですね、プログラムに老若はない。

 ウィンドウズが出る前は、お客様がどのメーカーのパソコンを使っているかで、違うソフトを作っていました。今でもゲームを見ると、任天堂のファミコンのゲームソフトはソニーのプレステでは動きませんね。同じゲームでも違うソフトを作るのです。どのメーカーのパソコンでも動くソフトなど作れなかったのです。また、工業規格化されたパソコン向けコンピュータ言語もなかったのです(今もって無い)。そうしたなか、ウィンドウズの登場は私どもには福音でした。パソコンのメーカーにかかわらず動かせるソフトが作れるからです。これでほんとに「ソフトは腐らなくなったぞ」と喜んだものです。

 さて、ソフトウェアは、基本ソフトと応用ソフトに分類されています。基本ソフトはウィンドウズ、応用ソフトはオフィスや一太郎と思ってください。さらに応用ソフトにプログラムを仕組んだり、プログラム開発用ソフトを使って、業務用のソフトが作られています(当社の商売はここ)。

 当社が業務用ソフトの製作に、発売と同時に使った応用ソフト(※2)は、ほぼ2年ごとにバージョンアップされてきました。が、根本的な機能は何ら変わらないので、そのまま使い続けていました。
 ところが、基本ソフトのウィンドウズもバージョンアップを繰り返し、ついに最近のウィンドウズXPでは、この応用ソフトが動きません。したがって業務用のソフトが使えないから業務ができません。この応用ソフトの製造元はウィンドウズと同じマイクロソフト。インターネットで調べたら、「XPではサポートしない」とのさびしいメッセージ。まだ発売から7年程度しかたっていないのですよ(※3)。
 たとえば、経理などの業務でいうと「売上−仕入=粗利」とか「粗利−経費=利益」とういう論理は変わりません。それを計算させるソフトもパソコンによらず変わらずに動くようになった、はずでした。なのに、基本ソフトのバージョンアップで動かなくなる。マイクロソフトに足元を掬われてしまいました。
 新バージョンには旧バージョンを変換する機能がついているだろう、とおっしゃいますな、これがまたそうとう不完全な代物。新バージョンへの変換は簡単にはいかないのです。ですからこれまで、バージョンアップにあわせて業務用ソフトを改造するのに費用をかけるより、新しい業務用ソフトの製作に費用をかけたほうが賢明だと判断していたのです。

 ついでながら、旧バージョンのウィンドウズはもう販売中止になっていますから、旧バージョンのウィンドウズ・パソコンは入手できません。

 お客様がパソコンを新しくすると私どものソフトを手直ししなければならないとは・・・。ソフトは腐らなくても、プログラマは不貞腐れています。


※1 日本電気(NEC)N88パソコン 言語はベーシック
※2 マイクロソフト Access2.0
※3 そういえば、2000年問題もサポートしていなかったけ・・・・。それでこの注意報を書き始めたのでした。



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