工作所発
うぃんど〜ず注意報 第15報
2000.7.1
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バージョンアップ


 パソコンソフトは頻繁にバージョンアップします。バージョンとは日本語で言えば第何版の“版”のことです。1955年刊行のかの広辞苑でも第五版。ところが、基本ソフトのマイクロソフト・ウィンドウズは、私が最初に出会ったのがバージョン3.0、91年のこと。次が3.1、95年にウィンドウズ95、その3年後に98がでました。2000年には次のバージョンが出る予定だそうです(※1)。実に頻繁にバージョンアップします。細かくバージョンを分けますと、ウィンドウズ95は3回、98は2回同じ名前でバージョンアップしていますので、ウィンドウズ95が95年に出てから5回も版が代わっていることになります。

 あるお客様とのお話で、マイクロソフト社のアクセスというソフトを使って当社がソフトを作ることになったのですが、「アクセスはバージョンいくつをお使いですか」とたずねたところ、「最新版だよ」と自信にみちたお答え。うっかり当時最新版のアクセス97で作るところでした。お客様のパソコンを見たら一つ前のバージョンのアクセス95なのです。アクセスなどマイクロソフト社のオフィスシリーズのソフトもバージョンアップが頻繁で(※2)、「最新版」などという言葉はうっかり使えません。お客様はソフトを使ってお仕事をしたいわけで、いつマイクロソフトが最新版を出したかなんて気を使っていられません。
 まあ、こう頻繁にバージョンアップをしてくれると、その度に解説本を書く仕事が回ってきますので、書き屋(ライター)としてはうれしい限りですが、だんだん解説本が売れなくなっているような気もしますが...。バージョンアップまでの期間が半年しかなかった商品(※3)もありました。このソフトの解説本のライターは脱稿したとたんに次のバージョンが出たりして、泣くに泣けなかったかも知れません。

 実は、当社でもお客様にソフトを納入すると、間髪を入れず、「あれ、ここが違うよ」とか、「ここ、こうしてくれない」というご指摘をうけ、直ちに改造して再納品しますが、納品するたびにソフトに番号をつけておきます。この番号を当社ではバージョンと称しています。納品してしばらくたってから「今度、こういうことも出来るようにしようよ」とご注文をいただけば、追加改造して納品。このときもバージョンを新しくします。なお、お客様が気づいていない不具合を発見した時などもだまってバージョンアップしています。
 当社の場合、バージョンアップの理由は3つあります。@お客様から追加の注文をいただいた時、Aお客様の注文どおりソフトが出来ていなくて改造した時、Bソフトに当社の不具合があって改造した時です。

 当社とは違い、一般消費者向けのソフトの場合、@とAはありません。メーカーがユーザーのニーズをつかんで新たな@とAを作り出すのです。そのときついでにBの不具合の対処をしていると思われます。われわれはメーカーから新しいバージョンが出ると聞きつけた時、メーカーがつかんだニーズとは何なのか、どんな新機能がついて、使う側としては何がうれしいか、気にします。こちらが望んでもいないニーズならバージョンアップする必要はありません。バージョンアップするにしても、新機能がまともに動くものなのか、市場の評価が落ち着くまで買い控え、むやみに飛びつかないことにしています。

 バージョンアップしよう!と決めると、ここから大変。前のバージョンで動いていた自社のソフトが新バージョンでは動かないことがほとんどなのです。ですから自社のソフトを改造するハメになります。

 前のバージョンのままで行こう!と決めても、これもまた大変な目にあいます。パソコンを増やして、前のバージョンのソフトを入れようにも、もう売っていないのです。前のバージョンぐらいなら見つけられないこともないですが、前の前のバージョンとなると、メーカーの博物館にも無いかもしれません。

 さてはて、ユーザーからみたら乱暴なバージョンアップをメーカーが仕掛けてくるのはどうしてでしょうか。ここからは勘繰りです。当社でも当社としては大規模な仕事を請負った時、当社のスタッフでは不足しますので、外注して凌いでいます。外注したソフトの品質を保つため製作仕様書も用意します。外注化するのは、もしスタッフとして雇用していたら、大規模な仕事が終わった後、同じくらい大規模な仕事を探さねばなりません。当社にはそんな仕事はめったにありませんから、経営が破綻してしまいます。ビル・ゲイツ氏のマイクロソフトとしても同じでしょう。大規模な仕事、例えばウィンドウズの開発が終わった時、抱えたスタッフを食わせるため、次の大規模な仕事、すなわちバージョンアップを企むのでしょう。でも、そこはアメリカ、スタッフをさっさと解雇したらよさそうなものです。がそこもアメリカ、ソフトの技術は人に付いていますから解雇したスタッフが新しいベンチャーを起しかねません。ですから抱え込むことになります。そう、ビル君の帝国は、独占しか生きる道が無いのです。



※1 ウィンドウズ2000という商品が出ていますが、これは同じウィンドウズでも別のシリーズのウインドウズ・エヌティのバージョンアップです。ウィンドウズには2つのシリーズがあったのです。ウィンドウズとウィンドウズ・エヌティ。画面の見た目はほとんど同じですが、設計思想がぜんぜん違います。将来は統一するというのがマイクロソフト社の方針と聞いています。
※2 マイクロソフトオフィス ワープロのワード、表計算のエクセル、データベースのアクセスなどをセットにした商品。オフィス5、6、95、97、ワードだけ98、2000とバージョンアップ。
※3 徳島のジャストシステム社の看板商品である「一太郎」。バージョン7のころ。

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