ニンジン1本 だいこん1本



 当社の会計ソフトは自作です。市販の会計ソフトを使っていましたが、どうにも気に食わなくて、自作に踏み切りました。もうずいぶん昔の話です。設計・製作は社員に任せました。社員のトレーニングになるし、伝票入力担当の視点から使い勝手の良いソフトが出来上がると期待しました。会計の知識はありませんでしたが、けっこう勉強していました。出来上がった会計ソフトは使い勝手が良く、今も使っています。

 企業が会計、つまり帳簿をつけるのは何のためでしょう? 日々の企業活動の金銭の出入りを把握し、快適な企業活動に資するためです。今のような伝票を書き、帳簿をつけ、利益や損失を試算するという企業の会計方式は、1800年代にアメリカで始まったそうです。もともとはフランス軍での武器製造管理のやり方を真似たアメリカ軍から天下った軍人が、民間会社で広めたんだとか。そもそも税金を納めるためが目的ではなかったんですね。いわゆる会計ソフトや会計システムは、この会計方式を踏襲したものでしょう。

 地元の先達の会社では会計システムが大活躍しています。関東各地に営業所があり、従業員が数百名というの企業ですが、月の締め日の数日後には会計システムから試算表を出して経営会議を開いています。

 小さな当社の自作会計ソフトは、伝票の登録、試算表の作成までを製作しました。こまめに伝票を登録すれば、日々の企業活動の金銭面を把握できます。さらに1年分の試算として貸借対照表と損益計算書の作成まで製作しました。

 会計ソフト自作はここまでです。納税額の算出と納税書類の作成の部分は作っていません。納税というもの、毎年毎年あれやこれやと算出方法が変わるし、書類の様式も変わりますから、プログラムを作っても来年はそのプログラムはきっと役に立ちません。で、納税書類は手書きです。

 このところコロコロとやり様が変わるのが消費税の制度です。税率は3、5、8、10%とかわり、非課税の物品もあれば、軽減税率なんてのが出てきました。でも会計ソフトはそのまま使えます。消費税の勘定科目を設けて、発行した請求書や領収書に記載した税額をその勘定科目で記録し、頂いた請求書や領収書には税額が記載されていますから、それを記録するだけです。あとは会計ソフトが試算してくれます。

 当社のような業界は、他の業界と比べて、“仕入れ”が無い分、伝票の数は半分くらいでしょうか。小さい企業なので伝票はもっと少ないでしょう。ですから、利益や損失の試算なんか勘でやってのけ、税金の算出は表計算ソフトでチャチャっとやればすむかもしれません。でもソフト製作会社ですから、そこは業者としての意地で会計ソフトは自作なのです! なのですが、使い勝手の良い会計ソフトでも伝票を記録するのは、けっこうな労力なんですよ。本業に精を出したい……。

 またまた、インボイス制度ってのが始まるそうです。事業者は大小を問わず、すべからく消費税を納付しろというお上のお達しです。会計ソフトやシステムを使って日々の金銭の出入りを把握し、快適な企業活動している事業者にとっては雑作もないことでしょう。ですが、本業に精一杯で帳簿なんか後回しの事業者はどうでしょう。大枚をはたいてパソコンと会計ソフトを導入しても、伝票の入力はけっこうな労力がいるし、専門家(税理士)に依頼してもそこそこの費用はかかるし、本業の稼ぎがすっ飛んでしまいかねません。さて、どうしたもんですかね…。

 とても昭和なお話。賑やかな商店街の八百屋のおばさんから「ちゃちゃっと税務署に持ってく書類をつくれないかい」と持ちかけられたことがあります。「う〜ん、店先に吊るしたカゴがあるでしょ。カゴに代金を入れたり、カゴから釣銭を出したり。それ、止めましょう。ニンジン1本、だいこん1本でも、ちゃんと“伝票”を書いて、コンピューターに入力するんです。そしたら出来るよ」…「伝票なんてやってられないよ!」



※1800年代にアメリカで始まった・・・
 「テクノヘゲモニー」中公新書(914)から

※伝票入力の労力
 当社はパソコンに向かって仕事するのが本業ですから、伝票入力じたいは苦でもないのです。それでもけっこうな時間を要します。パソコンとは無縁の仕事が本業のところは、伝票入力もとんでもない労力と察します。

※消費税の改定
 プログラムを改修しなければならないのは、請求書を作成するソフトです。税率が変わることは想定内でしたが、軽減税率は想定外。プログラムの改修は面倒でした。

※インボイス:請求書。 私ゃのどかに商売して暮らしたいんですがねぇ。


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