ナイス・ガイ



 子どものころ、友達の家に遊びに行って、よく「百人一首」で遊んでいました。といっても、“坊主めくり”というやさしい遊びです。絵の札を裏返しで山に積んで、順番に1枚ずつ引いて、お坊さんの絵の札を引いたらアウト!

百人一首には美女の代名詞になっている小野小町(おののこまち)の歌、
  花の色は移りにけりないたづらに
   わが身世にふるながめせしまに

また、美男(ナイス・ガイ)の代名詞という在原業平(ありわらのなりひら)の歌、
  ちはやぶる神代も聞かず竜田川
   からくれなゐに水くくるとは
もあります。

 地元の東京下町には業平(なりひら)という地名があります。千年の昔に在原業平がこの地を通ったことにちなんだものです(伊勢物語の吾妻下り)。江戸時代にその時に詠んだ歌の一節の“言問(こととい)”を団子屋が店の名前にし、それが隅田川の橋の名前に使われ、私が通った小学校の名前にもなっています。業平さんはとてもなじみ深い私なのです。

 そうそう業平の百人一首の歌は「昔むかしの神々のときにも聞いたことがないよ、竜田川の水が赤色の織物のように染まるなんて」というような意味でしょうか。ネットをちゃちゃっと見て、私なりのまとめです。いずれ図書館へ行ってちゃんと調べてみます。

 落語にも「千早振る」があります。こちらもネットのYouTube(ユーチューブ)で、古今亭志ん生、柳家小さん、立川談志などなど、往年の名人の動画を楽しめます。

 業平の歌の意味をせがまれたご隠居さん、歌のわけは『吉原の花魁(おいらん)の“千早”さんに振られ、“神代”さんも言うことをきかなかったので、お相撲は大関の“竜田川”は、引退して故郷に帰った。そしてお豆腐屋さんになって商売をしていたら、吉原をおわれた千早さんが偶然やって来て、おなかがへっているので食べ物を恵んでほしいと頼む。が、竜田川は振られた相手の千早と気づき、豆腐のお“殻(から)”さえゆずって“くれない”。そればかりか、くやしさから千早を突き飛ばすと彼女は井戸に落っこちて“水の中を潜(くく)る”羽目になった』と。

 意味をせがんだ長屋のお父さんは、感心しながら聞いていたが、『最後のくくるとはの“とは”が余りますが…』、ご隠居『とはは千早の本名だ』とオチ。

 江戸の知識人であるご隠居さんはお年寄りです。AIふうに言うと、重ねた齢の分だけ見聞を蓄えていますから、彼自身がビッグデータですね、そのなかから吉原だの相撲だのお豆腐などを引っ張り出しての物知り話は、AIふうに言うと、ご隠居さんなりのアルゴリズムなのです。現代のAIに歌のわけをせがんだらどうなりますかねぇ。アルゴリズムのプログラムはしっかり組めてますかねぇ。まだ無理かな?

 AIの研究・実践者の方のTwitter(ツイッター)が面白い記事を載せているのを見つけました。それをヒントに、私も
  “いいかげんな男 英訳”
とググってみました。Google(グーグル)の答えは
  “Naice Guy”。

 どんなビッグデータを使って、どんなアルゴリズムのプログラムを組んで、答えを出したんでしょうかねぇ。これじゃ、美男の在原業平さんは“いいかげんな男”ってことになってしまいますよ。ちなみに“いい加減な男 英訳”の答えは“Dumb Man”でした。

 ビッグデータは日々蓄えられてますから、いまググると違う答えが返ってくるかもしれません。

 AIというもの、ただひとつの正解を出すものではないでしょう。豊富な資料を整理して提示くれることを期待して、あとはこちらでいろいろ考えることにします、私は。




    ありわら‐の‐なりひら【在原業平】
      平安初期の歌人。六歌仙・三十六歌仙の一。阿保親王の第5子。世に在五中将・在中将という。「伊勢物語」の主人公と混同され、伝説化して、容姿端麗、放縦不羈、情熱的な和歌の名手、色好みの典型的美男とされ、能楽や歌舞伎・浄瑠璃の題材ともなった。(825〜880)【広辞苑】

    よしわら【吉原】
      @江戸の遊郭。1617年(元和3)市内各地に散在していた遊女屋を日本橋葺屋町に集めたのに始まる。明暦の大火に全焼し、現在の台東区千束に移し、新吉原と称した。(以下略)【広辞苑】

    くぐる【潜る】(奈良・平安時代には清音)
      @物のすきまをすりぬける。体をかがめて、物の下を過ぎる。
      A水にもぐる。かずく。
      Bおしはかる。
      C困難や危険の中を切り抜ける。すきに乗じて事をする。【広辞苑】

    アルゴリズム【algorithm; algorism】
      (アラビアの数学者アル=フワリズミーの名に因む)
      @アラビア記数法。
      A問題を解決する定型的な手法・技法。
       コンピューターなどで、演算手続きを指示する規則。算法。【広辞苑】

    AIの研究・実践者 新井紀子さん
      著作:「AI vs 教科書が読めない子どもたち」
         「AIに負けない子どもを育てる」


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