工作所発
うぃんど〜ず注意報 第5報
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規格化とナポレオン

 前々回マイクロソフト社の表計算ソフト「エクセル」の年2桁入力の問題を取り上げました。あれからしばらくしてマイクロソフト社から届いたレポートによると、和暦か西暦かを選択できるようにしたプログラムをインターネットや雑誌の付録CD−ROMで配布するとのことです。残念ながら、関数とマクロで問題をおこすことについては触れられていません。この問題は新聞にも報道されていました。(3月26日付 朝日新聞朝刊)

 さて、今回はマイクロソフトの『オフィス』の比較です。表計算『エクセル』のワークシート♂譁ハとデータベース『アクセス』のデータシート♂譁ハはどちらも表形式≠ナとてもよく似ています。そして一マスごとに数値や文字を入力していくので、同じような機能に見えてしまいます。
 当社が墨田区のOA相談を担当していたときの事。相談にみえた方が『エクセル』で「一マス(セル)の中を2行にしたい」というのです。相談員の私は「【Ctrl】キーを押しながら【Enter】キーです」と答えました。ところが操作してみると2行になりません。あわててヘルプを見ようとしたら、別の相談に来ていた方が「【Alt】キーを押しながら【Enter】キーで改行するよ」と教えてくれました。確かに『エクセル』は【Alt】キーと【Enter】キーで改行でした。普段『アクセス』を使うことが多い私としては、『アクセス』は【Ctrl】キーなので、とっさに【Ctrl】キーと答えたのです。同じマイクロソフト社の商品で『オフィス』としてセット販売しているので、操作が違うとは思いませんでした。ちなみに、ワープロの『ワード』で表を作ったときは、【Enter】キーだけで一マスの中を改行します。
 また、すぐ上のデータをコピーする(デュプリケート)場合に、『エクセル』は【Ctrl】に【D】キー、『アクセス』では【Ctrl】キーにフルキーボードの【7】キーです。
 『エクセル』と『アクセス』では目的が違うので、『エクセル』でできて『アクセス』でできない操作、あるいはその逆があるのは当然です。たとえば『エクセル』ではセルに計算式が入れられます(これがなければ表計算にはなりません)が、データを蓄積するのが目的の『アクセス』には
値≠オか入力できません。違いがあるのは当然ですが、セル内の改行とか、上のセルのコピーとか、同じ操作もあるわけです。なぜ、このようなところを規格化できないのでしょうか?自動車でいうなら、乗用車とトラックでブレーキの位置が違うようなものです。しかも同じ会社の車で。
 MS−DOS時代は表計算といえば『ロータス123』、ワープロといえば『一太郎』でした。メニュー画面を出そうとするとき、『ロータス』は【F1】キー、『一太郎』は【Esc】キーでした。ロータスをしばらくやってから一太郎をやると、よくキーを間違えイライラしたものです。なぜ同じでないのだろうと思いましたが、違う会社の製品ですから、がまんしました。またその頃にNEC社のパソコンN5200の表計算とグラフなども使いましたが、こちらは同じ会社なのにプログラムを終了させるキーが違っていて、当時でさえあきれていたものです。
 そこへ『ウィンドウズ』が登場。その謳い文句に操作の統一性がありました。確かに画面の上端にメニューが並び、左から基本的な指示、右端がヘルプと、どのソフトでも同じになりました。このようにせっかく『ウィンドウズ』が操作の統一性を目指しているのに、そのマイクロソフト社のソフトが統一していない。この原因は、この会社がM&A(合併・買収)で肥大になり、技術よりも商売を優先させるというアメリカンドリームと資本主義の権化だからでしょうか。
 話はとんで18世紀初頭、フランスのナポレオン軍はとても強かった。フランスは芸術の国だから、工業技術とは無縁だと思い込んでいましたが、挫折した高速増殖炉のフェニックス計画などけっこう工業国です。工業の基本は規格化あると聞いたことがあります。そういえば規格の原点というべきキログラム原器はフランスにありました。そのフランスのナポレオン軍の強さは「マスケット銃」という弾丸や部品を規格化した最初の銃の採用にあります。A社が作った銃でもB社の弾丸が使え、C社の銃が故障したときにD社の部品で補修できるというわけです。今では当り前のことのようですが、当時としては画期的。ナポレオンの強さの秘密はこんな処にもあったのです(旧日本軍はそうではなっかたと聞きました。勝てないわけです)。そこまで技術があり規格を作ったナポレオンさえも敗れた、ということは規格などに見向きもしないメーカーの将来は…?
 使い勝手はともかく表計算ソフトの能力はやはりすごいものです。縦横の演算、関数、グラフ、マクロなどなど、使いこなすと相当なことができます。
 先日、お店を始めたばかりの旧知の友人から、「売上のデータがあるからこれをもとに他店との比較をパソコンでやってほしい」ときわめて大雑把な依頼がありました(このお店にパソコンはありません)。社員の一人が表計算ソフト『エクセル』を使って、売上の比較表や推移グラフなど資料作成にとりかかりました。けっこう苦戦していましたが、なんとか先方へ送りしました。すると先方からさっそく電話が。
「パソコンてえらいねぇ。こんな比較がグラフになっちゃうなんて。」
社員がこたえて、
「パソコンがえらいんじゃありません。計算させた人間がえらいんです!」

 
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